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ep9 悪い心

Penulis: 根上真気
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-02 06:11:56

「失礼いたしました。王女殿下」

そう言ってエミル・グレーアムがリザレリスを降ろした場所は、城の屋上だった。あまりに速すぎて、どうやってここまで来たのかリザレリスにはわからなかった。

「い、今のはなんだったんだよ。スゲー動きだったぞ?」

「私の特技のひとつです」

「特技?」

「ディリアス様からご説明はございませんでしたか?」

「......あっ、ひょっとして魔法とか?」

「はい」

「へー、そうだったのか」

リザレリスはこの辺のことをあまり深く考えていない。おそらく前世の人格のせいだろう。

「驚かせてしまいまして申し訳ございません」

エミルは深く頭を下げた。

「もういいよ。てゆーか、こんな所に連れてきてなんのつもりだよ。意味わかんねーよ」

さっそくリザレリスが文句をつける。エミルは申し訳なさそうにはにかんで返してから、手すりに寄っていくと、城外を指さして示した。

「王女殿下。夜の街です」

促されるままリザレリスはエミルの隣にいき、手すりの上に肘をのせて街を眺めた。

「ふーん」

街の灯りが点々と光っている。前世で見たことのある街の夜景に比べると、なんだか物寂しく見える。だが、それはやはり街だった。

「王女殿下。どうですか?」

エミルはリザレリスへ微笑みかけた。リザレリスはふんと鼻を鳴らしてから、きびすを返して手すりへ寄りかかる。

「べつに」

「少しは心が落ち着かれましたか?」

その質問にリザレリスは答えず、ふと夜空を見上げた。

「どこの世界でも、同じように月も星も光ってんだな」

「今夜は雲ひとつない満月ですね。星もよく見えます」

「なあ、ええと......エミルだっけ?」

「はい。なんでございましょうか」

「俺...わたし、これからどうすりゃいいのかな」

「と、おっしゃいますと......」

「なーんて、生け贄のおまえに聞いてもしょうがないか」リザレリスはエミルに顔を向けると、かなしそうに笑った。

その瞬間、エミルの胸がドクンと脈打った。

月明かりに照らされた吸血姫(ヴァンパイアプリンセス)の、何とも儚げで美しい顔は、彼の胸を狂おしいまでにもてあそぶ。

やはりこの御方になら、この身に流れる血のすべてを吸い尽くされても構わないーー。

エミルはいても立ってもいられなくなる。

「お、王女殿下」

やにわにエミルは跪いて頭を垂れた。目の前の吸血姫への熱い想いを無理矢理抑えつけるように。 

「どうしたんだ?」きょとんとしたリザレリスは、エミルに向かって屈みこむ。

「な、なんでもございません」エミルは頑なにうつむく。

何となく不満を持ったリザレリスは、彼の顎に手をやると、くいっと顔を上げさせた。

「!」

リザレリスは一驚する。美少年の白い頬が桃色に紅潮し、何とも言えない苦悩の表情を浮かべていたから。

「も、申し訳ございません」

エミルは謝罪しながら、細長いまつ毛を揺らして視線を逸らす。

そんな彼を見つめながら、リザレリスは改めて思う。肌も髪も何もかもが綺麗で、眉目秀麗で甘やかなエミルは、美少年という言葉でも足りないぐらいだと。

「......おまえ、マジで綺麗でカワイイ顔してるよな」

「そ、そんな、滅相もございません」

「おまえ、マジでモテるだろ?」

「そ、そんな、私は王女殿下のためだけの生け贄ですので」

「ふーん」

ここでリザレリスに、ふと悪い心が芽生える。夜遊びに明け暮れた、前世の悪い心が。

「お、王女殿下?」

ひたすら狼狽するエミルの目に、リザレリスの妖しい笑みが映った。

「おまえさぁ。俺...わたしに惚れてんの?」

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